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広島高等裁判所 昭和46年(行コ)8号 判決

控訴人(原告・選定当事者) 岡部恭介

被控訴人(被告) 山口県知事

訴訟代理人 河村幸登 吉平照男 外三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一申立

一  控訴人

1  原判決を取消す。

2  被控訴人の原判決別紙第一ないし第三目録記載(これを引用し、以下単に目録として表示する)の各行政処分を取消す。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二主張

次のとおり補正するほか、原判決該当欄記載と同一である(但し、原判決三枚目裏八行の「原告ら」を「控訴人及び選定者(以下、控訴人を含む選定者全員をいうときは便宜控訴人らと称することにする)」と、同六枚目裏三行の「同第九七四号、」を「同第九七〇号、」と、同八枚目裏一一行の「六条」を「八条」と、同二一枚目裏五行の「昭和三六年指令薬一二七号」を「昭和三五年指令薬一二七七号」と、同二二枚目表三、四行の「昭和三一年指令薬一、四五〇号」を「昭和三一年指令薬一四五四号」と、同別紙第一目録許可内容欄のうち、地方職員共済組合山口県支部分を「動力装置」と、東山ヤス子分を「公共的利用」と改める。)から、これを引用する。

一  控訴人

温泉法一二条(以下、すべて同法の条項である)による許可は温泉の利用が衛生上有害であるか否かだけを判断して行うべきものであつて、同条の許可に温泉使用量の増加を含ませることは許されない。したがつて、使用が新たな掘さくに準ずるときは三条の、既設分の増加に準ずるときは八条の各許可申請によるべきである。一二条の許可によつて使用量の増加が認められるとすれば、温泉使用量についての保護規定の趣旨が無視されることとなる。

ところが、被控訴人の一二条許可は、これによつて使用量の増加を認めているから違法である。このことは、利用許可申請書に一日最大使用量を記載させ、かつ割当量遵守の誓約書を提出させていることからも明らかである。

二  被控訴人

被控訴人は、控訴人主張のような使用量の増加を許可したことはない。元来、法律上、被控訴人にそのような許可権限は認められていない。

温泉法は、各泉源の一日の最大揚泉量を温泉のゆう出路の口径、深度及び動力装置を規制することによつて制限する趣旨では九条を設けているにすぎず、使用量の増加の許可はあり得ない。

一二条による公共的利用の許可により現実の使用量が増加する場合も、それは従前の三条、八条の許可にもとづき、その範囲にとどまるものである。したがつて、この場合の使用量の増加につき違法であると主張するものは、右条項の許可につき争うべきものである。

なお、被控訴人が利用許可申請書に一日最大利用量、浴槽容積の記載を求めていることは認めるが、これは将来採取制限等の温泉保護行政をするにあたり、申請者の各温泉利用量を適確に把握するという行政目的から行なつているものであつて、その記載内容を許可、不許可の判断資料に供しているものではない。また誓約書は、申請人ら温泉業者で構成する組合が、その内部的自主規制(誓約書に記載の割当量も申請人らの間で、決定したものである)として申請書に添付していたものであり、被控訴人の方から提出を求めたものではない。

第三証拠関係〈省略〉

理由

第一> 被控訴人の本案前の抗弁、訴願手続の経由、控訴人らの地位、行政処分の存在についての、当裁判所の判断は、次のとおり訂正する外、原判決理由第一ないし第四と同一である(ただし、その判断の順序は前記表題順に改める)から、これを引用する。

一  原判決二五枚目表末行の「第三目録」を「第二目録」と改め、裏四行の「行訴法付則一条、四条により」を削り、一一行の「行政処分は、」の次に「後記第四、のとおり」を加える。

二  同二六枚目裏一一行の「被告主張の」から二七枚目表一一行の「明白である)、」までを「被控訴人主張の右各行政処分のうち第二目録関係分については特例法五条三項により、第三目録中昭和三七年九月三〇日以前の分については行訴法附則七条二項から前記特例法の条項により、同年一〇月一日以降分については行訴法一四条三項により、各処分の日から一年を経過したときは抗告訴訟が提起できないことになつている。ところで、」と、裏二行の「出訴期間」から四行の「ところで、」までを「出訴期間内の提訴であるが、他の処分については右一年を経過していることが明白である。しかし、」と、六行の「極めてぼう大な数にのぼり」を「多数で」と、一〇行の「課程」を「過程」と、二八枚目表八行の「四年七ケ月余り」を「八年余」と改める。

三  同二八枚目裏三行の「判断する。」の次に「特例法六条は抗告訴訟については併合を関連請求に限り、」を加え、二九枚目表四行の「違法事由をいわば共有し」を「違法事由が共通であり」と改め、裏八行の「本件の訴えの利益」から九行の「適用すべきであるが」までを削る。

第二 本件行政処分の適法性について判断する。

一  湯田温泉の歴史

1  深層泉源開発前の推移

(一)  開発状況

原審における証人山口金一、同松浦二郎の各証言及び控訴人本人尋問の結果によると、湯田温泉は大正一二年ころ、当時の山口町長が自噴していた湯泉に注目して農商務省技師大井上義親に調査依頼したうえ、ボーリングによる試掘をした結果、錦川沿いにゆう出地域のあることが発見され、昭和の初期に、旅館業者らによつて同地域に深度約一〇メートルの泉源から動力で汲上げた湯泉により大衆浴場が創設されたことに始まり、以後掘さくによる泉源が次第に増加し、昭和三〇年ころには約九〇本の泉源が許可を受けて開発(ただし、うち約二〇本は休止)されていた。

(二)  泉温の変化と原因

成立に争いのない乙第二号証の一ないし四、第三号証、原審証人松下久道の証言により成立の認められる甲第一、第二号証によると、湯田温泉の平均泉温は昭和一一年に四八・四度を有していたが、年々低下して昭和一九年には四四・一度となつたが、その後徐々に上昇して昭和二四年に四九・六度までになつた後更に温度低下し、昭和三〇年には四〇度となつたこと、前記温度上昇は後記の電力使用量の規整により揚水量が減少したことに因るもので、低下の主たる原因は湧出量よりも揚水量が年々増加した点にあることが認められる。

(三)  温泉行政等及び本件行政処分の発令

成立に争いのない甲第一一ないし第一四号証、第一七号証の一、二、第二二号証、第二九号証の一、第六三号証、第六五号証、前掲山口証言及び控訴人本人尋問の結果を総合すると、次の各事実が認められる。

(1) 1(一)記載のとおりの泉源増加により、山口県(以下単に県という)は昭和一〇年に県令によつて鉱泉規則を公布(昭和一二年一〇月に改正)して温泉行政に当ることとしたが、右規則の骨子は、鉱泉の穿掘、増掘、掘替、浚渫及び供給について県知事の許可制とし、右のうちの供給を除くものの許可は鉱泉間の距離や鉱泉管の内径を、供給は配泉管の長さを各制限し、また鉱泉保護を目的とする組合の設立を認め、組合員は組合の規約及び議決を遵守する義務のあることを定め、組合は鉱泉に関して知事の諮問に答え、または意見を上申することができる、というものであつた。

(2) 右の結果、昭和一三年一月に山口市及び山口県吉敷郡大歳村を区域とする湯田鉱泉保護組合が設立されたが、その規約によると、鉱泉の温度が一定温度より低下した場合には増掘、掘替を認め、ゆう出量が減少したり、鉄管の腐敗等の場合には鉱泉の浚渫を認め、鉱泉の配給には時間制限を設け、総会の決議に基づく鉱泉の使用量の制限制度を設けていた。

(3) 昭和一九年四月に、県は、当時の時局に対応して内政部長の名をもつて、浴槽の使用時間、電力規整を実施することの通牒を出した。

(4) 新憲法の施行に伴い、勅令、府県令等が昭和二二年一二月三一日に失効し、温泉法が昭和二三年七月一〇日に公布され、同年八月九日から施行されることとなり、山口県規則第九八号温泉法施行細則が同年一二月七日に制定されたが、右細則一〇条は法一二条の許可申請書に一日における最大利用量、浴用のものは浴槽の容積の記載を要求していた。

(5) 終戦後電力事情が好転し、湯田温泉を訪れる客も多くなり、温泉の汲上量が次第に増加するに伴い、平均泉温は前記(二)のように泉温低下もあつたことから、県は昭和二三年に東大教授大塚弥之助、京大助教授瀬野錦蔵らに湯田温泉の調査を委嘱した結果、泉温低下の原因が前記(二)のとおり解明されるとともに、温泉保護のために、一日の汲上量を九〇〇キロリツトル(約四九八九石)以下、できれば八〇〇キロリツトル(約四四三五石)程度に維持することが望ましい旨の意見が提出された。

(6) そこで県は、温泉汲上量を制限する方針を立て、昭和二五年七月二五日には審理を留保していた山口刑務所長からの温泉利用申請を、利用量の増加は温泉保護の見地から適当でないことを理由に、却下したこともあり、また県温泉審議会(以下単に審議会という)は前記学者の意見や現実面を考慮したうえ、一日の汲上量を七五〇〇石に制限する必要がある旨及び新規の利用者は特別の事情がない限り許可しない旨の決議をし、その旨県に答申した。

(7) そこで県は、聴問会を開催する等して前記制限量等を定めようとしたが、一二条の解釈運用について疑義が生じ、同年一一月に厚生省に質疑をしたところ、同条の利用許可申請は、衛生上有害であると認められない限り、不許可とすることはできない旨の回答を得た。その結果、県は右解釈に従うこととしたが、控訴人ら一部の業者は、温泉保護のためには、利用許可の場合に揚泉量を制限すべきであるとの解釈運用を強く主張し、県の前記方針と対立した。

(8) 県は、揚泉について業者らの自主的制限が行なわれることを望み、業者らに対して温泉採取量制限について各種の技術的方法(量水器によつて汲上量を測定する方法、電力使用量を制限する方法、動力装置の能力を軽減する方法、汲上管や輸送管を小さくする方法等)に関する長短を記した書面を送付して具体的保護対策の成立に努めた。

(9) しかし、業者間に意見が分かれ、更にはこれに熱意を示さない者もあつて、その成立をみないまま日時が経過し、その間、利用許可申請等が相次いで出され、数年間処分留保のものも生じて、放置しておくことはできないことになり、第一、第二目録及び第三目録中の防長自動車株式会社に対する掘さくについての本件処分が行われた。

2  深層泉源の開発とその後の推移

成立に争いのない甲第四〇号証、第四一号証の一ないし七、九、第四五号証、乙第二号証の一ないし四、第三号証、原審における控訴人本人尋問の結果によつて成立の認められる甲第五六号証、前掲山口、松浦両証言及び原審証人兼行恵雄の証言を総合すると、次の各事実が認められる。

(一)  県及び山口市(以下単に市という)は、湯田温泉の熱源及びゆう出力についての総合的科学調査を実施することとし、昭和三〇年からその準備をすすめ、昭和三一年に数名の各種専門学者に対して右調査を依頼し、同年一一月から三年間にわたつて第一号ないし第八号試掘泉工事の施行により種々の調査がされた結果、湯田温泉地帯の地質構造が解明されるとともに、従前の泉源地帯より深層部に豊富な高温の泉源のあることが発見され、これと従前の浅層泉源との関係も大体明確となり(これら地質構造等についての詳細な認定は、原判決三五枚表一〇行から三六枚目裏六行までと同一であるから、これを引用する)、右調査結果に基づく泉源保持についての結論として、以下のような報告が行われた。

(二)  浅層からの揚泉量は既にゆう出の限度を超え、逐年下流地域より上流に向つて温度低下の現象を生じているので、現状以下に揚泉を制限する必要がある。深層泉源分は高温であつて、且つ相当量の温泉の採取が可能であるので、今後の開発は深層温泉に主眼を置くべきであるが、一号試掘泉附近の浅層湧出地帯へ影響する範囲は避けなければならない。右開発の当初には、浅層温泉への影響が比較的少いと思われる地点(例えば三号、四号試掘泉附近)から着手し、深層泉源相互の関係にも留意しつつ掘さくを進めるべきであり、この場合掘さく場所相互の間隔は一応一〇〇メートル、採取量は毎分一三〇リツトル(一日約一〇〇〇石)程度を保つことが適当である。但し自噴量がこれを超える場合は一泉源当り一〇〇〇石を基準として、これに比例して、次の掘さく地点への距離を伸長することとする。以上が報告の要旨であつた。

(三)  そこで、県は、右報告に従つて温泉行政を行うこととし、かつ湯量を公益に合するよう利用するために共同配給制度の採用を検討することとし、これを審議会に諮問するとともに、市及び合理的かつ適正な配給制度を実施する目的で発足していた湯田温泉配給組合(以下組合という)を交えて検討した結果、順次次のような措置がとられた。

(四)  審議会湯田問題特別委員会は、昭和三三年一二月二五日開催の会議において、今後の保護開発利用対策について、(1)浅層泉源については新規の掘さく等直接揚水量を増加するような行為を認めるべきではないが、既設の泉源が、自然現象に起因して、温度、ゆう出量低下し、使用上著しく困難をきたすような事態となつたときは、個別的に合法適切な処置をとること、(2)深層泉源の掘さくの数や地点等については前記報告を基本として泉源の開発に当ること、(3)公益にそうため、差当つての開発は市が実施するとともに、ゆう出温泉の利用については共同配給制をとり、組合が担当するのが適当であるが、配分方法については特に公正を期して、官民学識経験者等をもつて構成する配給委員会を設け、その議を経ての決定が望ましいこと、等を内容とする方針を採択した。

(五)  昭和三四年七月三〇日に県、市、組合の三者間において、(1)温泉掘さくは当分の間、市が行い、ゆう出温泉を配給するための貯槽タンクまでの管理を行うこと、(2)温泉の配給先及び配給量については市条例によつて設置する山口市湯田温泉配給委員会が公正に決定すること、(3)その配給実務は組合が行うこと等を骨子とする協議が成立し、その覚書を作成した。

(六)  このようにして、後記のように、市が順次掘さく、湧出した温泉の配給制度を実施するようになつたが、高温の泉源を有している者及び配給を受ける意思を有しない控訴人らを含む計二一名の業者は右配給制度を利用しなかつた。

(七)  浅層泉源の平均泉温は、昭和三一年以降も一度から二度位づつ低下したが、前記配給制度の実施により、配給を受ける者は高温の温泉を得ることができることになつた。

二  本件各処分の検討

1  公共的利用許可処分について

(一)  前記一、1、(三)記載の経緯によつて、被控訴人は、一二条の公共的利用許可申請については、衛生上有害であると認められない限り不許可とすることはできないとの方針を採つたが、前掲山口、松浦両証言によると、第一、第二目録記載の各公共的利用許可申請はいずれも衛生上有害であるとは認められなかつたので、許可処分となつたことが認められる。

(二)  温泉法は第二章において温泉の保護について、第三章において温泉の利用について各規定しており、公共的利用許可について定める一二条は第三章に位置し、公衆衛生の見地から、採取された温泉の使用を制限したものであつて、都道府県知事は、温泉の成分が衛生上有害であると認める場合を除いては許可を与えなければならないものであり、たとえ、同条の許可を与えたことにより揚泉量の増加が生じるとしても、それを理由に、右利用を不許可とすることは許されないと解するのが相当である。

(三)  そうすると、本件各処分は適法なものである。

(四)  控訴人は、被控訴人が利用許可申請書に一日最大使用量を記載させ、割当量遵守の誓約書を提出させていること等を根拠として、本件利用許可処分が揚水量の増加について許可を与えたものである旨主張するが、温泉法上、知事に、揚水量の増加自体について許可を与える権限は認められておらず、控訴人主張の事実があつたとしても、揚水量増加の許可を与えたものということはできない。

2  掘さく、増掘、動力装置許可処分について

(一)  右処分がされた事情をみることとする。

(1) 深層泉源開発前のもの

深層泉源開発前の推移は前記一、1のとおりであり、この間における許可は第一、第二目録記載分及び第三目録中の防長自動車株式会社分であるが、成立に争いのない甲第二八号証の一〇、一七、第三二号証、第三四、第三五号証、前掲山口、松浦両証人、原審証人井上政次の各証言を総合すると、被控訴人は、前記推移から、新規の掘さくは特別な事情のない限り許さないこと、従前の泉源の掘替えまたは増掘については、温度低下あるいは湧出量の減少のため利用上重大な支障が生じたものに限り、従前地の近接地点で、口径と動力は従前のものと同一で、深度は近接した泉源の最も深いものの深さを超えない限度で認めること、動力装置については、掘替えに伴うものは従前と同一の動力のものを許し、一定温度に達した後に用いる予備的動力は従前の動力と同時に稼動させないことを条件として認めること、という基準を立て、本件各処分は次の個別的事情が認められたので、審議会の許可相当の意見を得たうえで許可したことが認められる。

(イ) 第一目録中の山根良一分の掘さくは、新規掘さくであるが、その地点は浅層泉源地帯から一五〇メートル以上離れた場所で、付近には他に泉源がなかつたこと、審議会の答申のほかに、当時の湯田温泉保護組合長藤井兵太(前選定当事者)からも、既設温泉に影響がないと認められるので、許可しても差支えない旨の答申書が提出された。

(ロ) 第一目録中の西村チヨ分、平井三郎分、第二目録分(ただし大長利一分を除く)、第三目録中の防長自動車株式会社分の掘さくは、いずれも掘替え掘さくであり、第二目録中の増掘分(藤村暢三、杉本寿香、西村チヨ関係)とともに、いずれも前記基準に合致していた。

(ハ) 第二目録中の大長利一分の掘さくは新規掘さくであるが、その地点は浅層泉源地帯から四〇〇メートル以上離れた場所で、その付近には他に泉源がなかつた。

(ニ) 第一目録中の山口鉄道療養所長分、井上隆一分、地方職員共済組合山口県支部分の動力装置はいずれも予備的動力であり、第二目録中の動力装置分九口はいずれも掘替え掘さくまたは増掘に伴うものであつて、前記基準に合致していた。

(2) 深層泉源開発のためのもの

前記一、2のとおり、湯田温泉地帯の総合的科学調査を実施するための試掘が行われたが、成立に争いのない甲第八七号証の一、二と前掲山口証言によると、第二目録中の県、市の試掘は前記試掘に当り、専門学者の意見によつてその場所が選定され、審議会の許可相当の意見を得て、許可されたことが認められる。

(3) 深層泉源開発後のもの

前記一、2のとおり、深層泉源が開発され、配給制度が実施されたが、成立に争いのない甲第八九号証の一ないし六、第九〇号証の一ないし五、第九一号証の一ないし四、第九二ないし第九五号証の各一、二、第九六号証、第九八号証、第九九ないし第一〇四号証の各一、二、第一〇五号証の一ないし四、第一〇六ないし第一一一号証の各一、二、第一五四号証の一ないし六、第一五五、第一五六号証、前掲山口、井上、松浦証人の各証言に弁論の全趣旨を総合すると、第三目録記載の各処分(但し、前出の脇、防長自動車株式会社国鉄に対するものを除く)は、次の事情の下に、審議会の許可相当の意見を得て行われたことが認められる。

(イ) 山口市長分の掘さくは、前記配給制度を実施するために行われたもので、学者の意見の下に、浅層地帯より離れた場所に保護区域を定め、その範囲内で各掘さく場所間に相当の距離(原則として一〇〇メートル以上)が保持されている。

(ロ) その余の掘さく分は、浅層泉源地帯からの距離が、右保護区域よりも更に遠い場所で、各掘さく場所間の距離も一〇〇メートル以上保持されている。

(ハ) 須佐農業協同組合に対する増掘分及び各動力装置分は、いずれも前記(一)(1)の基準に合致していた。

(二)  温泉法三条、八条一項は、温泉の掘さく、増掘、ゆう出量を増加させるために動力装置をしようとするものは都道府県知事の許可を受けなければならない旨定めるとともに四条、八条二項において、知事は温泉のゆう出量、温度若しくは成分に影響を及ぼし、その他公益を害する虞があると認められるときの外は、右許可を与えなければならない旨定めている。右ゆう出量等に対する影響というのは、いずれも公益を害する虞がある場合の例示であり、公益を害する虞がある場合とは温泉源を保護しその利用の適正を図るという公益的見地からこれに反すると認められる場合を指すものであつて、知事が右規定により許可をするかどうかの判断は、主として専門技術的な判断を基礎とする裁量により決定すべきことがらであり、右決定が違法となる場合は右裁量権の限界を超える場合に限るものと解するのが相当である。

(三)  本件掘さく、増掘、動力装置の各許可処分は、前記(一)認定の事実関係の下においては、被控訴人の裁量権の限界を超えたものとは認められない。

(四)  控訴人は、右各許可処分の諮問機関である審議会の委員の選任に違法があるので、右各許可処分は違法である旨主張する。しかし、温泉法一九条二項には温泉審議会の委員等については都道府県の条例で定める旨規定されているところ、弁論の全趣旨によると、これについての山口県条例では、右委員を湯田を代表する委員に委嘱しなければならない旨を定めておらず、また、その主張の臨時委員が前記配給制度による配給を受けているからといつて、審議会の議決が無効となるものではないから、右主張は採用できない。

(五)  また本件許可処分の結果既存業者の所有温泉の泉温が低下したとしても、その一事で本件許可処分が違法となるものとは解せられない。なお控訴人は被控訴人が右結果の発生をあらかじめ知りながら本件許可処分をしたと主張するが、前記一、1、(三)及び二の経過からするとき、右主張は採用できない。

第三 以上の次第で、控訴人の本訴は訴が不適法あるいは請求が理由がないので却下及び棄却すべきものであり、これと同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。

よつて、本件控訴を棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 辻川利正 梶本俊明 出嵜正清)

選定者目録〈省略〉

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